« 対北戦 | Main | 好機殺しへの報復 »

2011.09.10

無意識に覗いてた未来

時間と労力を費やしたYの映画を見終わってから、
打ち合わせをしたかったKの姿も見えず、
となるととりあえずすることがなくなってしまい、
なら早めに出て、次の目的地に行く前に、
馬場の駅前でもブラブラしようかと、
半日いた学校を後にした。

振り返って考えるに、校門を出た時すでに、
実は間違った方向へと歩き出してたんだけど、
地下鉄の駅はそっちにあり、
行きに来たのがそっちからでもあったので、
特におかしいとは思いもせず、
大通り沿いをしばらく新宿に向かって歩いた。

ふと、ノドの渇きを覚えて、
近くにあった100円ストアに足を踏み入れる。
飲料水をズラリ並べた冷蔵ケースの前に行き、
何を飲もうか品定めをしながら迷っていると、
入口の扉が開くチャイムの音が鳴ったので、
何の気なしにそちらの方へ目をやった。

アレ?っと思った。続いてギクリとした。

店に入ってきたのは、50代後半~60代の、
ごま塩頭をした初老の男性で、普段だったら、
別に気にもとめないタイプの他人である。
ただ、頭を少し斜めに傾け、
左足を引きずりながら歩くその姿には、
個人的にハッキリ覚えがあり、
頭の中では、記憶内の人物カードが、
高速度でめくられていたのだった。

自分でも驚くべき速さで記憶が甦った。

今から四半世紀くらい前。
今もそこで働いている業界に入って、
ようやく半人前から脱し始めたころ、
月1回、D印刷に、あまり好きじゃない仕事を、
しに行かなければならなかったのだけれど、
そこには、その、若造の好まない仕事を、
専門にして詰めている人たちが何人かいて、
そのうちの1人が、
まさに今店に入ってきた、Iさんだった。
名前もパッと頭に浮かんだ。

四半世紀ぶりの邂逅だった。

Iさんは、そのD印刷での仕事を、
生業としていたのだけれど、
本当は?ジャズの物書きで、一部では有名な人だった。
セシル・テイラーが一番のお気に入り、
と書くと、もしかしたら特定も可能かもしれない。
業界内ではあまり見かけない、職人気質の人で、
やはり仕事の関係で付き合いが深くなり出していた、
四ッ谷のジャズ一派とも肌合いが大きく異なる。
話をすればそこそこ話してくれるのに、
どこか人を寄せ付けない雰囲気もあり、
結局、最後まで距離が縮まることもなく、
当時の自分にとっては、かなり難しい部類の大人だった。

ただ1つだけ、
会話の中で頭に残ってることがあって、
“音楽(彼にとってはジャズ)について、
モノを書くことでは絶対に食ってはいけない”という言葉。
それは後に、イヤというほど身に沁みて、
理解することになったけど。笑。
20代のお気楽な若者は、その時分、
まぁ家族もそうだろうけどIさんが、
どんなものを背負って働いているのか想像できなかった。
彼がここいらに住んでいると聞いて、
けっこう凄くね?とか思ってたのは覚えているけど。

所詮は1カ月に1回、
多くて2回会うだけの関係だったので、ムリもないかも。
その割に、いろいろ話をした印象もあるんだけど。

100円ストアでIさんが買い物をしてたのは、
結局10分にも満たなかったはず。
あっという間に精算を済ませ、
自動ドアから出ていくその特徴ある後ろ姿を、
冷蔵ケースの前でぼんやり見送った。

何でギクリとしたんだろう?
それ以上に、
何で声をかけもしなかったのか?

ここからは適当な意味づけだ。

あの時分はあえて深く意識しないようにしてたのだけど、
自分は当時の彼に、無意識に、
未来の自分の姿を見たのだと思う。
何となくショボく、それゆえリアルな、
ありがちの未来。
それは記憶の奥底でずっと眠り続け、
四半世紀経っていきなり甦った、
だから、彼と実際にすれ違って、
どうすればいいのか一瞬わからなくなったのだ。

Iさんが消えてしばらくして、
何も買わずに店を出た。
また少し歩いた後で、初めて道の間違いに気づき、
そのまま大通りを引き返した。

四半世紀経って彼の姿を見たことに、
何か意味があったのだろうか?
たぶん意味はないのだけれど、
偶然にしてはできすぎていて、
そのできすぎに対する戸惑いと、
片や、そんな大層な意味あることでなければ、
声ぐらいかければよかったという後悔とか、
入り乱れていて、ほとんど上の空で歩いていた。

それにしても、
まるで魅入られでもしたかのように、
道を間違えてあの100円ストアに入ったのは、
人生の、ひとつの区切りをつけるためだったのか?
…とでも思わないと、信じられないような出来事。

もちろん大した区切りではないのだけど、
それでも、
「単に25年前出会った人と偶然再会した」、
なんて話でもないと思う。
Iさん。
お互い生きてるうちにお会いすることは、
もう2度とないに違いない。

|

« 対北戦 | Main | 好機殺しへの報復 »

Happenings」カテゴリの記事

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



TrackBack


Listed below are links to weblogs that reference 無意識に覗いてた未来:

« 対北戦 | Main | 好機殺しへの報復 »